2023.09.25
厚生労働科学研究費補助金
健康安全・危機管理対策総合研究事業
公衆衛生医師の確保・育成のためのガイドライン策定と
女性医師を含む多様性包括型キャリアパス構築に関する研究
平成 29年度 総括・分担研究報告書(簡易版)
平成 30(2018)年 3月
研究代表者 吉田 穂波 神奈川県立保健福祉大学 准教授
研究分担者 渡邊 亮 神奈川県立保健福祉大学 研究員
研究分担者 佐藤 大介 国立保健医療科学院 主任研究官
研究分担者 吉村 健佑 国立保健医療科学院 主任研究官
公衆衛生医師の現状分析に関する新たなデータ収集として臨床医に対するアンケート調査を行った結果、医師資格取得年数は平均 25.0 年であり、年間収入は概算平均 1,543 万円で、男性・50 代・専門医資格を有する層の年収が相対的に高い傾向があった。
公衆衛生医師領域の認知率はベテラン医師で比較的高い一方、関心がある割合は女性や若手医師で比較的高い傾向がみられた。
コンピテンシーについては 60 代以上で全般的に高い自己評価となり、30 代以下では『分析評価能力』の「法令に基づく統計調査を正しく理解し,データを的確に使うことができる」が低い結果となった。
行政医師に対するインタビュー調査については、医師確保の課題として公衆衛生行政医師業務の魅力を効果的に発信できていないことが示唆された。
一方、公衆衛生行政業務のやりがいやワークライフバランスを踏まえると、潜在的な「なり手」は存在すること、組織や地域を越えた人材交流の枠組みを構築することによって医師確保を促進しうることが示唆された。
育成上の課題としては「育成プログラム」や「研修機会」の欠如が挙げられ、キャリアラダーなどを用いてコンピテンシーを踏まえたキャリアパスを明示することに加え、オンライン研修の充実や自治体内研修受講の義務化が重要であると考えられた。
全国的には公衆衛生医師の絶対数不足とさらなる減少傾向、地域偏在が深刻な状況である。
そこで、都道府県の実態を統合することで公衆衛生医師の人材確保に係る課題を整理することができた。
厚生労働省の公衆衛生医師確保政策における論点整理と課題抽出においては、これまで開発されたガイドラインやチェックリストなどのツールや好事例集の類似点、相違点が明らかになった。
人口減少や専門医制度、地域医療構想等、時代の変容に合わせた利活用方法について概観し考察を加えた。
【結論】本研究は、自治体の公衆衛生医師の確保を促進するために、女性医師、若手医師、ベテラン医師、都道府県の修学資金制度を利用した医師など、細分化したターゲット別のアプローチを関係組織と共有し、社会医学系専門医認定プログラムや自治体の公衆衛生医師養成プログラムと連動した研修手法を検討するという包括的なアプローチを用いている。
本年度は、これまでの全国保健所長会事業の取り組みを踏まえながら、新たな定量的調査及び分析を行い、人材育成プログラムの開発と行政機関における現場の実態把握とを一体的に検討し、具体的な公衆衛生医師確保のためのガイドラインおよび指針に繋げていく素地が出来た。
今後は、これらのエビデンスに基づいて抽出された公衆衛生医師確保のポイントを自治体担当者向けに簡便かつ魅力的に見せ、自治体規模や地域特性に応じて公衆衛生医師確保の手段として役立てられるようなツールを構築していく必要があると考えられる。
本研究を通じて全国保健所長会事業と本研究班や教育・研究期間、臨床で働く医師のネットワークが交流する機会を持ち、連携し、公衆衛生領域の意義を広め、活性化を促すことも副産物の一つである。
今後、より具体的で精緻な人材確保および育成手法の確立が求められる。