健康増進課の後は、どんな部署を担当されたのですか?
医療政策課の在宅医療・介護連携担当に2年間いました。自分が矢面に立つことが多かった健康増進課に比べると、医療政策課では在宅医療の仕組みづくりの進め方を考えたり、在宅医療に携わるたくさんの関係者の協力を促していくという、どちらかといえば裏方の仕事が中心です。
各地域の医師会の先生方や市町村の担当者などから、在宅医療を進める上で何に困っていて、どこが難しいのかといったことを直接聴くこともあれば、在宅医療に関わる県内すべての機関にアンケート調査を行い、県として取り組むべき課題を整理するといったこともしました。
そのほか、ある医師会の在宅医療の診療グループづくりを考える会に参加し、行政でもあり医師でもあるという立場から意見を述べさせていただいたこともあります。
本庁にいながら、地域に入り込んで関わるのも、とてもおもしろい経験でしたが、医師という立場があってのことかとも思います。
連携がうまくいっているところと、うまくいかないところの違いは何なのでしょうか。
理由はさまざまですが、核となる人がいるかどうかが大きなポイントのように思います。
核となる人がまだいない地域にも、もともと関心や意識はあるけれども、行動に移していないだけという人は必ずいます。そうした人の活動のきっかけを提供したり、活動をサポートするのも行政の役割ではないかと思います。
一つの方法として、地域の意識付けのために繰り返し情報を提供していくということがあります。たとえば、「高齢者が増え療養する人も増えるなか、病床が増やせないとしたら、このままでは地域全体が困りますよね」といったことを繰り返し伝え、「みなさんはどう考えますか?」と問ううちに、意識が変わる人、行動を取る人が出てきますから。
そして、情報を提供する際には、たとえば医師会の方々と話すときには医療者の視点も踏まえるなど、医師として自分の立場や資格も利用しつつ、相手に理解してもらえるよう工夫することも重要と考えています。
行政側に医師がいることで、地域の医療者との意思疎通もスムーズになるということでしょうか。
健康増進課の話に戻りますが、以前、行政職の方が担当のリーダーをされていたときに、医師会の先生方とコミュニケーションを取ることが難しいということもあったという話を聞かされたことがあります。専門用語という言葉の壁だけでなく、地域の医療者にとっては、「行政は現場のことをわかっていない」という気持ちの壁もあったのかもかもしれません。それが、医師がリーダーになり、そのリーダーを交えてやりとりをするようになったことで、先生方の受け止め方や対応が変わったそうです。
そう話してくれたのは、コミュニケーション能力に優れ、周囲からの信頼も厚いとても優秀な行政職の方なので、きっと医師会の先生方とは良好な関係にあったはずです。それでも「行政側に医師がいるのといないのでは仕事のやりやすさが違う」と感じたということは、公衆衛生医師の存在価値の1つとして重要なことかと思います。
ただ、「いるだけで価値がある」というのはありがたい話ですが、それだけでは面白くありません。自分の価値を追求するなら、医師の視点で「ここも大事ではないですか」とプラスαの要素をどれだけ加えることができるかがポイントではないでしょうか。また、それが行政に医師がいる意義を高めることにもつながると思っています。