公衆衛生医師として約1年半働いて、臨床医とは違った面白さ、やりがいなどはありますか?
臨床医と1番大きく違うのは、目の前に自分が診るべき患者さんがいない、ということですね。臨床医は24時間365日、病院からの呼び出しに待機しなければならないという負担もありますが、その分やりがいを感じやすかったと思います。一方、目の前に患者さんはいませんが、公衆衛生医師の場合は、臨床医より多くの人を支えるチャンスがあるように思います。
例えば、3,000人もの在宅療養者をいかにもれなく医療に繋げるか仕組みを考えた時は、ICTを利用したり、トリアージの基準を作って、大勢の応援職員と一緒に対応しましたが、そうした患者対応は臨床医では経験できないものでした。その時は必死でしたが、充実していました。新型コロナなどの感染症パンデミックや食中毒、鳥インフルエンザ対応など、「健康危機管理」に関わることで多くの人の健康を守ることができる点は、臨床医とは違った仕事のやりがいだと思います。
また、大勢の人に役に立つような仕組み作りに、自分1人の力ではないにしても関わることができるのは面白いですね。最近の例では、造血幹細胞移植を受けたお子さんがワクチンを再接種する場合は原則として全額自己負担となるのですが、そのことを地域の講演会で取り上げたところ、ご家族の声などを受け、県内のある自治体で新たに助成事業が立ち上げられました。お世話になった大学医局の先生方とそうした情報を交換しながら、検討してくれる自治体が増えているのを実感するのは嬉しく思います。そのほかにも、医療的ケア児の災害時対策の仕組み作りや、COVID-19の後遺症調査のデザインに関わるなど、いろいろな仕組み作りに携わっているのは面白いなと感じます。
また、やりがいではありませんが、公衆衛生医師になって人との繋がりがとても増えました。国立保健医療科学院では、全国から集まった30人の保健所に勤務する医師、獣医師、薬剤師、保健師たちと一緒に研修を受講し、そのつながりが今も続いています。転職前に重視したワークライフバランスという点では、コロナ対応で忙しいなりにも、当直はないので家族との時間が増えました。そうしたことも、この仕事の一つの魅力だと思います。