それでも、現実と理想は違っていたのでしょうか?
小児科の救急にくる子は、風邪や熱、あるいは熱性けいれんが多く、薬や点滴で症状をやわらげてあげれば、時間とともに自然に治っていくことが多いと感じました。一方で重症の子はと言えば、現代の医学では何をやっても治らないことが多かった。そうしたことを経験していくうちに、軽症の子は自然に治り、重症の子はどんなに手を尽くしても治らないのなら、自分の存在価値はあるのだろうか――と考えてしまったのです。
また、ほとんどの子が自然に治っていくのはなぜかと考えると、今の子どもたちは、そもそも重症の病気にはあまりかかりません。我々は大学で、急性咽頭蓋炎や細菌性髄膜炎など「見逃してはいけない病気」をたくさん学びます。でも今の現場ではほとんど診ることはありません。なぜなら、それらは、ワクチンによって予防されているからです。
では、それをつくったのは誰かと考えると、ワクチンを作った会社もそうですが、それを制度として組み込んだ行政の力は大きい。それで、厚生労働省に入りました。